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Man standing in front of a speeding train

学術研究に関する記事

人間の視覚認識速度

視覚は、人々が周囲の環境を理解し、日々活動していくための主要な感覚です。人間の 生活におけるその重要性から、視覚は最も幅広く研究されている感覚モダリティです(Hutmacher, 2019)。アイトラッキングを活用しようと考えている人にとって、 視覚による知覚の概念とその人間の能力の限界を把握しておくことは重要です。    この記事では、視覚による知覚について説明し、その速度と測定方法について深く掘り 下げ、知覚プロセスに影響を与えうる要因を挙げました。

視覚による知覚の速度とは?どのように測定されるのか?

視覚による知覚とは、視覚刺激の受容とその認知のプロセスのことです。(Lieberman, 1984)もっと簡単に言えば、見たものを理解する能力のことです。視覚処理速度は、 視覚刺激を認識し、分析し、そして正しく判断することにかかる時間と定義されています(Owsley, 2013)。例えば、テニスプレーヤーがボールの方向を認識し、サーブの返し方を決定するのにかかる時間は、視覚による知覚の速度と考えられます。

実験では、反応時間などの行動指標を用いて視覚処理速度を評価します。GO/NO-GO 分類課題では、被験者は刺激に対して「GO」と反応するか、あるいは反応を保留する(「NO-GO」)か、二者択一を求められます。このような課題におけるマニュアル反応の最小反応時間は約300msです(Rousselet et al., 2003)。しかしならが、これには視覚処理と動作命令の実行の両方が含まれていることを考慮する必要があります。

Go no go - visual perception
GO/No-Go分類課題の概略図。被験者は、反応するか(GO)、反応を保留するか(NO-GO)を決めなければなりません。    反応は、サッカード(眼球運動)か手動(スイッチなど)のいずれかです。

眼球運動は視覚処理速度の測定にも使われています。類似するgo/no分類課題では、答えに向かうサッカードは僅か120ms後に開始されます(Kirchner and Thorpe, 2006)。サッカード反応は興味深いことに、刺激に人の顔が含まれる場合、無生物などよりも速く、わずか100msしか、かかりません(Crouzet et al.)。

サッカードの準備と実行の推定遅延は約20~25msであり(Schiller and Kendall, 2004)、視覚系が視覚刺激を処理して信頼性の高い反応を生成するのにかかる時間は 約80~100msしかないことを示唆しています。

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視覚による認知の速度を推定するもう一つの方法は、刺激を見た後の反応を測定することです。この方法では、運動やサッカード応答の実行に必要な時間を考慮する必要がなく、意味のある視覚的理解を達成するために必要な、最小限の時間を評価することができます。このような実験では、被験者がわずか13ms見た画像を正しく識別していたことから、従来考えられていたよりもはるかに速い視覚による認知が可能であることが示唆されています。実験では、被験者に13msから80msの画像が提示されました。被験者には、画像の前か後にターゲットとなる名前(例:花)が提示され、そしてこれを識別し選択するために2つの画像が提示されました。被験者はわずか13ms画像を見ただけで、偶然では考えられないレベルで正しい画像を識別することができ、44msで最大のパフォーマンスに達しました。(Bacon-Macéら、2007;Potterら、2014)。

人の視覚による知覚の速度は様々な方法で測定することができます。その反応速度はある程度評価方法に関係があります。また、視覚刺激の種類によって、必要となる処理時間も異なります。特に、2014年にPotterらによって記録された、意味のある視覚刺激を処理する最も速い速度の1つは、13msでした。さらに、この複雑な認知システムをよりよく理解するのに役立つ、視覚認識速度に影響するその他の要因を挙げます。

視覚による認識の速度に影響を与える要因

·  速度と正確さはトレードオフ

脳では視覚認知の正確さとスピードはトレードオフの関係にあります。    (Lenninger et al.)最初の視覚処理は速いのですが、あまり正確ではありません。

·  視覚による分類速度は学習に左右されない

視覚的急速分類(Rapid Visual Categorization)と呼ばれる特定の視覚処理モードの速度は、学習によって変わることはありません。刺激が非常に馴染みのあるものであっても、まったく新しいものであっても、刺激を分類するのにかかる時間は同じです。(Fabre-Thorpe et al.、2001)。

·  脳活動のスイートスポット

視覚は、入ってくる視覚刺激とその時の脳の状態との相互作用です。         脳の状態と神経の興奮度は、視覚の速度と精度に影響を与える可能性があります。(Iemi and Busch, 2018; Ruzzoli et al.)

·  期待は視覚の速度を上げる

予想される刺激の位置をヒントにしたり、これから起こる刺激に関する文脈を提供したりすることで、視覚処理の時間を短縮し、精度を向上させることができます。    (Bar, 2004)

·  明るさは重要

暗くコントラストが低い刺激よりも、明るくコントラストが高い刺激の方が視覚による 認知のスピードが速く、視覚情報の質も高くなります。(Hunter et al.)

Cited publications

Bacon-Macé, N., Kirchner, H., Fabre-Thorpe, M., & Thorpe, S. J. (2007). Effects of task requirements on rapid natural scene processing: From common sensory encoding to distinct decisional mechanisms. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 33(5), 1013–1026.

Bar, M. (2004). Visual objects in context. Nature Reviews Neuroscience, 5(8), Article 8.

Crouzet, S. M., Kirchner, H., & Thorpe, S. J. (2010). Fast saccades toward faces: Face detection in just 100 ms. Journal of Vision, 10(4), 16.

Fabre-Thorpe, M., Delorme, A., Marlot, C., & Thorpe, S. (2001). A limit to the speed of processing in ultra-rapid visual categorization of novel natural scenes. Journal of Cognitive Neuroscience, 13(2), 171–180.

Hunter, M., Godde, B., & Olk, B. (2017). Effects of absolute luminance and luminance contrast on visual discrimination in low mesopic environments. Attention, Perception, & Psychophysics, 79(1), 243–252.

Iemi, L., & Busch, N. A. (2018). Moment-to-Moment Fluctuations in Neuronal Excitability Bias Subjective Perception Rather than Strategic Decision-Making. eNeuro, 5(3), ENEURO.0430-17.2018.

Kirchner, H., & Thorpe, S. J. (2006). Ultra-rapid object detection with saccadic eye movements: Visual processing speed revisited. Vision Research, 46(11), 1762–1776.

Lenninger, M., Skoglund, M., Herman, P. A., & Kumar, A. (2023). Are single-peaked tuning curves tuned for speed rather than accuracy? eLife, 12, e84531.

Lieberman, L. M. (1984). Visual Perception versus Visual Function. Journal of Learning Disabilities, 17(3), 182–185.

Potter, M. C., Wyble, B., Hagmann, C. E., & McCourt, E. S. (2014). Detecting meaning in RSVP at 13 ms per picture. Attention, Perception, & Psychophysics, 76(2), 270–279.

Rousselet, G. A., Macé, M. J.-M., & Fabre-Thorpe, M. (2003). Is it an animal? Is it a human face? Fast processing in upright and inverted natural scenes. Journal of Vision, 3(6), 440–455.

Ruzzoli, M., Torralba, M., Morís Fernández, L., & Soto-Faraco, S. (2019). The relevance of alpha phase in human perception. Cortex, 120, 249–268.

Schiller, P. H., & Kendall, J. (2004). Temporal factors in target selection with saccadic eye movements. Experimental Brain Research, 154(2), 154–159.

  • 執筆者

    Ieva Miseviciute

  • 読了時間

    4分

Author

  • Tobii employee

    Ieva Miseviciute, Ph.D.

    SCIENCE WRITER, TOBII

    As a science writer, I get to read peer-reviewed publications and write about the use of eye tracking in scientific research. I love discovering the new ways in which eye tracking advances our understanding of human cognition.

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