視線動画とインタビューが定性調査の常識を変える?

  • Mike Bartels
  • 5 分

Woman online shopping using eye tracking

人間の行動や動機付けの根底に存在する「本音」を探求する上で、回顧的な思考発話法(以下、RTA)と呼ばれる方法があります。ユーザビリティテストでよく利用される思考発話法(タスク実行中に考えていることを声に出しながら操作してもらう手法)はご存じかもしれません。一方でRTAは、調査参加者のタスク実行中の視線データを取得し、その後視線データ再生しながら、タスク中の思考や感情を説明してもらうという手法です。この手法においては、タスク中に発話する必要がないため、自然な行動を維持でき、単なる反射的な言動ではなく、正確に人の行動や動機に踏み込むことが可能となります。

この記事では、調査からより価値のあるインサイトを得るための手段として、アイトラッキングや他のデータ取得方法と共にRTAインタビューを使用する方法をご紹介します。

Woman looking at a baby food jar in the supermarket

RTAインタビューとアイトラッキングが効果的な理由

10人のUXリサーチャーに、最も価値のあったアイトラッキング調査について挙げてもらうと、おそらく10通りの答えが返ってくるでしょう。ヒートマップやエンゲージメントメトリクス、インパクトゾーン、ビジビリティベンチマークなど、ローデータから実用的な知見に至る経路は無限にあります。しかし、あまり知られていませんが、アイトラッキングは、定性的なインタビュー結果を向上させるという強力なメリットを秘めています。

アイトラッキング分野において書かれたほとんどの調査レポートは、停留データつまり、視覚情報を定量化し、総合的な理解を促進するのに便利なⅩ/Y座標に関するものばかりです。この種の結果の価値には議論の余地がありませんが、より主観的で、感覚に基づいた、雑然とした方法論を強化するために、視線データをどのように使うことができるかを検討することにも価値があります。

モデレーターが抱える2つのジレンマ

伝統的なインタビューのジレンマ:一般的なモデレーターの仕事は、調査テーマに関する重要な課題に対して、真実で正確なフィードバックを引き出すことです。一見、参加者の考えや経験、動機について話を聞くということは、簡単そうに見えますが、実際には信じられないほど難しいことです。参加者は忘れっぽく、偏見を持っています。こちらが欲しそうな答えを言ったり、詳細が曖昧になったり、盲点に気づかなかったりすることも多々あります。例えば、食料品店での買い物について生々しく語ってほしいのに、グループインタビュールームのような地味な部屋でインタビューが行われているなど、インタビュー自体が、聞きたいことからかけ離れている環境で行われる場合、このような定性調査の落とし穴が、正確なデータを収集することを難しくしているのです。

思考発話法のジレンマ

先に述べたのジレンマの一部は、「思考発話法」というインタビュー手法を取り入れることによって解決されれています。この手法では、例えば、モデレーターはインタビュー対象者が実際に買い物をしているときに、何をしているのかを尋ねるなど、リアルタイムにフィードバックを引き出します。このようなインタビューでは、対象者が忘れてしまう、という事象を減らし、より詳細なインサイトを得ることはできますが、一つだけ大きな欠点があります。「観察者効果」というのをご存じでしょうか。「観察者効果」とは、元々物理学の概念で、ある現象を観察するという行為だけで、観察されている現象が変化するというものです。これは、心理学でも応用されています。参加者にとって、タスク中にモデレーターに行動や思考を言語化しなければならない行為(すなわち、声に出して考えること)というのは、自然なことではありません。そのため、事実上、この手法は、関心のある行動を変化させてしまうのと同時に、不自然に変化した行動に対するフィードバックを収集することにもなります。これはジャーナルに投稿されたり、重要なビジネス上の意思決定に使用されたりするような結果を構築するのには理想的ではありません。

People in a focus group

回顧的な思考発話型インタビュー

上述したように、定性調査の主な欠点は、(1)従来のインタビューは文脈から外れているため信頼性が低く、(2)文脈に沿った 思考発話型インタビューは誤解を招きやすい、という2点です。しかし、もし従来のインタビューのような控えめさを保ちながら、思考発話型インタビューから得られる詳細で、リアルタイムのインサイトの両方を実現できるとしたらどうでしょうか?そこで、アイトラッキングの登場です。回顧的な思考発話型インタビュー(RTA)は、定性インタビュー中に、視覚的手がかりとして視線動画を再生を利用する手法です。最初は複雑に聞こえるかもしれませんが、実はシンプルで簡単な方法です:

  • ステップ1:参加者に自然なタスクを与え、アイトラッカーを使用して参加者自身の目を通してインタラクションを正確に記録する
  • ステップ2:参加者は、中断することなく興味のあるタスクを完了する(タスクの一例:スマートフォンの使用、サイトの閲覧、店舗での買い物など)
  • ステップ3:タスク完了後、モデレーターはアイトラッキングデータ、すなわち視線動画を再生します。
  • ステップ4:モデレーターは動画を再生し、参加者に詳細なインタビューを実施します。参加者はタスクの重要な瞬間を振り返って語り、興味深い行動や振り返りに関するモデレーターの直接的な質問に答えます。

RTAのモデレーターには、多少のトレーニングは必要ですが、この種のインタビューを行うのに、視線に関する専門知識やコンピューターのスペシャリストである必要はありません。一度トレーニングすれば、容易に習熟でき、それほど難しくはないでしょう。考えてみればそれは非常に理にかなっています。人間は視覚的な生き物です。私たちの体験というのは、感覚によって構築されていますが、視覚ほどその構成要素の多くを占める感覚はありません。人々をできるだけ深く理解することを使命とする定性的なモデレーターにとって、調査参加者がが見ているものを見ることができるということは、大きなアドバンテージとなります。William James氏の言葉を借りれば、**「注意は経験である」**ということです。

だからこそ、容易に学習できるのです。RTAは、テクノロジーによってリサーチャーと参加者が切り離された例ではなく、むしろその逆なのです。定性インタビューにアイトラッキングを使用することで、モデレーターと参加者の間に、他の手段では達成できないつながりが生まれます。リサーチャーとして、実際の人々の体験に近づけば近づくほど、人々を理解し、行動を説明し、真実を明らかにすることができるのです。

執筆

  • Mike Bartels

    Mike Bartels

    Director of Marketing research and user experience

    Mike Bartels has a master’s degree in experimental psychology and 12 years of experience within the field of eye-tracking research and attention measurement, across a range of different areas of commercial and academic fields. His publications include eye tracking–related articles for several marketing research magazines including Quirks, QRCA Views, MRA Alert, and a book chapter in Eye Tracking in User Experience Design (published in 2014 by Schall and Bergstrom). He has presented at several scientific conferences including the Human-Computer Interaction International Conference, IIEX and the Eye Tracking Research and Applications Conference.

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