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自閉症におけるアイトラッキング

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  • 執筆者

    Tobii

  • 読了時間

    6分

従来の自閉症研究における視線計測の応用は、「眼を見る時間」というような視線の停留時間の比較に基づいて行われてきたが、知見は必ずしも一致していない。研究チームは自閉症の客観的な評価指標の開発に取り組み、Tobii アイトラッカーから出力される 「 いつ、どこを見ているか 」 についての視線計測データの時空間パターンを解析することによって、例えば定型発達群と自閉症群を従来の方法よりも鋭敏に判別する方法を確立した。 

背景

コミュニケーションと社会性の発達障害である自閉症はかつての10倍の頻度で発生している。 自閉症は症状から診断が下される症候群で、確認項目は多岐にわたり、診断の一致率を確保するためには、十分な経験を積んだ専門家の診断が必要である。だが必ずしも専門医・専門家の数は十分ではないから、誰でも同じ定量的な結果が得られるような補助的な検査法が求められている。 

視線計測はその一つの候補である。特に近年、 非接触型の視線計測装置の性能が向上して普及したことで、成人だけでなく幼児や児童でも簡単に視線を計測できるようになった。 

目的 

大阪大学の研究者たちは、アイトラッカーで記録された視線パターンを分析することで、子どもだけでなく大人にも適用できる自閉症患者を特定するための定量的な方法を開発することを目的としました。 

By using eye tracking, even a non-expert can draw ample information from non-verbal children. The method has a wide range of applications such as screening of developmental disorders in children.
Professor Shigeru Kitazawa, Department of Dynamic Brain Networks, Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

方法

時空間パターンを記録して解析

大阪大学大学院生命機能研究科の研究チームは、25人の自閉症児(平均年齢3歳)、25人の定型発達群(TDまたは神経型発達児とも呼ばれる)、27人の自閉症成人、27人の神経型発達成人を対象に調査を行いました。幼児向けの映画やテレビ番組から抜粋した同じ短時間のビデオクリップを視聴しました。 

ビデオ刺激は、複数の登場人物が会話するもので、各場面における社会的シーンや注意散漫の程度は様々であった。両眼の視線位置は、Tobii X50 スクリーンベースのアイトラッカーで測定し、その後、研究者は、ビデオクリップ中の被験者の目と口への注意に着目し、参加者全員の視線パターンを分析しました。 

自閉症研究においては「 自閉症では眼を見ずに口を見る 」というのは有名な定説だった。だが、 「子供では眼を見る時間に差がない」あるいは 「対照群も自閉症群もどちらも口をよく見ていた」などの報告が相次いでおり、子供では必ずしも「定説」が成り立たないのではないか、という疑問も生じてきた。そこで研究チームはまず これらの知見の検証を行った。 

成人に関しては、これまでの定説通り眼を見る時間は定型発達群で自閉症群よりも有意に延長していた。しかし、児童の群では、眼を見る時間の群間差が無いばかりか、口を見る時間に関しては、定型発達群が自閉症群よりも有意に延長しているという結果が得られた。 

A heatmap showing the attention distribution.

成人と児童のデータをフレームごとに解析して差が出るポイントを検索したところ、登場人物が話しはじめると同時に差が出ることが明らかになった。成人は眼を見続けるのに対し、定型 発達の児童はすぐに口に注目した。定型発達の子どもは言語機能を獲得過程で話者の口に注目 する時期があるようだ。十分な言語機能を獲得 するにつれ、表情などの社会的な情報を豊富に含む眼の領域に注目するのではないか。子どもから大人に成長するにつれ、口から目に注目が変化していくとすれば、目や口を見る時間の違いは子どもと成人に共通する社会性の障害の指標とはなりえない。 

そこで研究らは、Tobii アイトラッカーから得られた視線の停留時間ではなく、すべての情報を含んだ視線データの時空間パターンそのものを多次元尺度法で比較・解析する方法を構築した。 

結果

研究チームは、被験者のすべての視線パターンを考慮し、多次元尺度法(MDS)を用いてデータをまとめました。時間空間的な視線軌跡が似ている被験者同士は、非常に近い位置にプロットされることになる。このように、視線行動が類似している被験者集団はクラスターを形成し、非典型的な視線行動をとる被験者は他の被験者から離れた周辺部にプロットされることになる。 

多次元尺度法で視線の時空間パターンをプロットすると、対照群は中央に集中して分布したのに対し、自閉症群はそのまわりに大きく分散していた(上右図)。対照群は皆同じような場所をほぼ同じタイミングで見ているのに 対し、自閉症群では思い思いの場所を思い思いの順番で見ていることを示す結果である。 この分布の中央値(+字)は、最も典型的な目の動かし方に相当すると考えられる。そこでこの「中心」からの距離を各群で比較したところ、小児でも成人でも自閉症群は対照群 と比べて有意に中心から遠いことが明らかに なった。 多次元尺度法の結果で見られた群間の違いは どこからくるのか、各クリップの主な対象に 対する注視割合の時間的な変化を群間で比較し、注視パターンの動的な時空間の違いを調べた。その結果対照群は会話のやり取りに応じて、皆同じようなタイミングで視線を話者 から次の話者へと移動させているのに対し、 自閉症群にはそのようなダイナミックな注視パターンの切り替えは見られなかった。 

A graph with a gaze plot showing the attention distribution.

多次元尺度法で定義した「中心」からの距離 を使うと、大人は 75%、小児は 87 %程度の 正確さ( ROC 曲線が囲む面積 )で自閉症群と 対照群を弁別することができた。 

この「距離」 は発達によらない自閉症の指標になるものと 期待される。 

研究チームはさらに言語発達の遅れはあるが 社会性の遅れを伴わない特異的言語障害の児童( SLI, specific language impairment 群 , 16 名)に対して同じ手法を適用して、定型発達群 (25 名)、自閉症群(25 名)の 3群の比較を行った。その結果、多次元尺度法の平面の上で、 SLI 群と定型発達群を 8 割程度の精度で分離 できた。中心からの距離を使うことで、SLI と自閉症の間も 8 割程度の分離が可能だった。 定型発達群とSLI 群の違いを詳細に解析したところ、SLI 群は定型発達群よりもさらに口への 注目が強いことが明らかになった。 

本研究で取り上げた映像刺激を見ている人の視線パターンを分析することで、豊富な情報を得ることができる。これらの情報を抽出することで、シンプルかつ効果的な検出方法を構築することができるだろう。将来的には、応用行動分析学のような治療法の成果を評価するためにも、同じ方法を用いることができるかもしれません。 

レファレンス 

1. Nakano, T. et al. Atypical gaze patterns in children and adults with autism spectrum disorders dissociated from developmental changes in gaze behaviour. Proc R Soc B277, 2935-43 (2010). 
2. Hosozawa, M., Tanaka, K., Shimizu, T., Nakano, T. & Kitazawa, S. How children with specific language impairment view social situations: An eye tracking study.pediatrics129, e1453-e1460 (2012).

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    Tobii

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