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アイトラッキングを人間情報学の 演習に活用し、社会人として役立つ論理思考を身につける

アイトラッキングを人間情報学の演習に活用することで、アイトラッキングがどのように役立つのか、神田教授にインタビューを行いました。

Prof. Kanda

大阪工業大学 情報科学部 情報メディア学科では、2年生を対象にTobii社のアイトラッカーを使った人間情報学の演習を行い、人間行動を理解し情報システムのデザインに活かすことを目指している。演習で実施する視線動作の測定と分析を通して、データに基づいたレポートを作成することにより、学生の論理思考の習得に繋がり、将来の就職活動にも役立っているという。

■視線データは「外から見てもわからない人の行動の可視化」

人間情報学の演習では、人間の五感や知覚の仕組み、情動の働き、コミュニケーションの仕組み、運動の仕組みなど、人間の基本的な挙動を観察し、情報システムのヒューマンファクタを抽出して情報学的に考察を行っている。モーションキャプチャと視線計測を活用し、全14回の講義のうち、前半6回はモーションキャプチャ、後半8回はアイトラッカーを用いた視線計測の演習に充てている。

「モーションキャプチャは、CG映画などでなじみ深い計測であり、学生の興味を喚起しやすいために最初の計測に用いています。後半にアイトラッキングを選んだのは、モーションキャプチャで人間の行動を数値化するという演習に慣れてもらった上で、外界からは見えない人間の視線行動というものを数値で捉えて分析するということに挑んでもらいたいからです。」と、情報科学部情報メディア学科教授 神田智子氏は導入の目的をそう語る。

■アイトラッキングはわかりやすく、非接触で誰でも何人分でも計測できる

発汗、脳波、心拍など様々な生体計測手法がある中で、なぜアイトラッキングが選ばれたのだろうか。

「確かに生体計測方法は他にもあり、心拍も脳波も皮膚伝導率も測ることは可能です。ただし、それらの生体計測を行う場合センサーを皮膚に取り付ける作業が発生し、感電の恐れもあります。また、計測結果の信号解析が必要になりますが、2年生前期の段階ではまだ学生が相応の知識を持っていません。その点、最も計測しやすく分析しやすいのがモーションキャプチャとアイトラッキングです。特にアイトラッキングの場合は非接触で誰でも何人分でも計測ができるという利点があります。」

演習では10人分の視線計測をする。もし、脳波ならば一人ひとりに電極を付けなくてはならず、時間内に規定の人数分を測定することは困難だ。加えて、総合的な生体計測解析ソフトウェア『Tobi Proラボ』が提供されているということも導入の決め手になった。

■計測した視線データをグループで分析・考察

人間情報学の視線行動分析の演習では、人の視線データをグループごとに分析、考察、発表を行うことで、以下3つの能力を身につけることを目的としている。

a) 人間の挙動を客観的に観察し分析する

b) 人間の特性に関して情報学的観点から議論を行う

c) 分析結果に関して理論立ててプレゼンテーションができる

「演習では、嫌悪、恐怖、喜び、驚きの4つの表情の静止画を8秒間ずつ提示して、10人分の視線を計測します(図1)。表情読み取りに伴う視線計測を体験した上で、人間は表情を読み取るのに、顔のどの部分を注視しているのかを中心に、どのような分析ができそうか、分析の着眼点を考えてもらいます。学生から出てくる着眼点は、最初は非常に直感的であいまいなものが多いです。例えば「目付近をよく見ている感じがする」「目のあとに鼻を通って口に行って戻る」などですね。そういう感覚的かつ形容詞や副詞で表現している観察内容を、いかに数値で検証していくのか、そのプロセスを考えることを人間情報学では重視しています。感覚的、直感的な着眼点に対して、視線計測データをどのように分析すれば、自分たちが検証したい結果として示すことができるのか、数値を用いて論理的に説明できるように指導していきます。分析結果を示す場合に、棒グラフ、円グラフ、帯グラフなど、どのようなグラフを用いるべきなのかも考えてもらいます。」 (図2,3)

facial expression 
図1.視線計測に使用する表情の種類(画像は実際に演習で使用している画像とは異なります)
Prof. kanda_Figure 2
図2.学生が作成した分析結果グラフ例と指導内容(注視部位別の注視時間,注視回数の比較)
Prof. kanda_Figure 3
図3.学生が作成した分析結果グラフ例と指導内容(注視部位別の注視時間の割合の比較)

■論理思考を身につけるうえで、アイトラッキングは非常に有効なツール

将来社会人として役立つ論理思考を身につけるには、アイトラッキングは非常に有効な題材であると、神田教授は語る。

「情報科学部の学生は卒業するとシステムズエンジニア(SE)になる人が多いです。SEが仕様書を作成する場合、100人が読んだら100人が全て同じ意味でその文章を理解できる書き方ができないといけません。人間情報学のレポート作成を通して、客観的な文章作成を学習することは、ビジネスにも役立ちます。」

自身の研究室では、アイトラッカーを使った研究も行っている。研究室の学生がアイトラッカーを使い、視線でゾンビを倒すゲームを開発し、学園祭の研究発表会で公表したところ、それを見た企業から内定のオファーが出たこともあった。「私は現在キャリア支援担当委員長として多くの就活生の面談をしていますが、その時に『人間情報学で、人間行動を計測し、数値化して分析結果を論理的に述べるということを学んだので、それを活かせるSEになりたい』と言ってくれる学生がいます。そういう意味では、論理思考の練習をすることが、エンジニアの道を強く志すきっかけになっていると感じています。

■■■神田教授のアイトラッキングを使った研究のご紹介■■■

ユーザの視線行動に適応したエージェントを開発

研究室でのアイトラッキングを使った研究成果の一つとして、人の目を見て話すのが苦手な人向けの対話エージェントがある。例えばシャイネス度の高い人は他人の視線に敏感で、相手からの凝視を嫌い、アイコンタクトを避ける傾向がある。そのような人たちは、対話エージェントからの視線さえ大きなストレスになる。そこで同じ悩みを持つ研究室の学生の発案で、ユーザの視線行動に適応するエージェントを開発した。

「対話中のユーザの視線行動をTobii社のアイトラッカーを用いて計測し、エージェントの目を見て話すユーザにはエージェントもアイコンタクトをとる、そうではない人にはエージェントがユーザの目から視線を逸らすことでユーザと類似した凝視量を保って話す対話エージェントを開発したのです。」

評価実験では、シャイなユーザグループに対話のストレス軽減効果や対話エージェントへの親近感の向上の効果がみられたと言う。シャイなユーザに対しては、最初はエージェントが視線を合わせないように設定し、 徐々にユーザへの凝視割合をあげていくことで、ユーザの視線恐怖症が改善するといった治療効果や、面接練習などにも応用が期待されている。

神田教授のご研究に関する詳細は、こちらから

  • インタビュアー

    星 飛雄馬

  • 読了時間

    5 min

  • 2024年7月25日

このインタビューシリーズでは、研究者たちが、幅広い用途でアイトラッキングをどのように使ってきたかを紹介しています。

Interviewer

  • Hyuma Hoshi

    星 飛雄馬

    プロダクト事業部 セールスダイレクター

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