アイトラッカーの仕組み
本記事ではアイトラッキングの仕組みや、人間の視覚システムの仕組みなどを解説しています。
アイトラッキングを使った研究や調査を始めようとお考えの皆様はもちろん、既にアイトラッキングを使っていらっしゃる方にも知っていただきたいアイトラッキングの基礎についてご紹介します。3部構成となっておりますので、是非ご覧ください。
第一弾:アイトラッカーの仕組みについて
第二弾:人間の視覚システムと眼球運動の種類について
本記事では、
について解説します。
皆様のお役に立てると幸いです。
正確度(Accuracy)と精密度(Precision) は、アイトラッカーの性能や取得したデータの品質を判断する上で重要な考え方です。
視線データを取得する際のデータの有効度の指標として使用され、正確度と精密度の高いシステムほど有効なデータを提供します。
正確度は、実際の指標の位置と算出された視点の位置の誤差の平均値を表し、精密度は、連続するサンプルのRMS( 二乗平均平方根) によるデータのばらつき、つまりデータの再現性を表します。
要求される正確度と精密度のレベルは研究内容によって異なります。例えば、リーディング研究や小さな視覚刺激を使用する研究では、正確度と精密度はより重要になります。
正確度の誤差は被験者と実験条件によって大きく異なります。正確度は被験者の特性、実験環境の明るさ、視覚刺激の特性、キャリブレーション結果、データ取得手順、検出可能範囲内での目の位置などに依存します。
図2の左は正確度の良いデータです。全部で7つの停留(赤い丸) が出来ていて、そのうちの6つが興味領域(AOI)に入っています。停留は画面中央に1つ、AOI A に時間の長い停留と短い停留が1つずつ、AOI B に1つ、AOI C に2つ、AOI D に1つ出来ています。
図2 の右は同じ停留パターンを垂直方向の正確度誤差を3°以上と仮定した場合のデータです。停留はAOI D のみに入ります。
正確度の良いデータでは、被験者が目と口に注目していたことがわかりますが、正確度が悪いデータでは「目を見ていない」というデータになってしまい、解釈に影響を与えることになります。
図3 の左は正確度の良いデータです。全部で7つの停留( 赤い丸) が出来、そのうちの6つが興味領域(AOI)に入っています。停留は画面中央に1つ、AOI A に時間の長い
停留と短い停留が1つずつ、AOI B に1つ、AOI C に2つ、AOI D に1つ出来ています。
図3 の右は同じ停留パターンで精密度誤差を1°以上と仮定した場合のデータです。停留の数は7から14へと2倍になっていて、ほとんどの停留が時間の短い停留(小さい赤い丸)になってしまっています。また、精密度の良いデータでAOI C に入っていた停留が、精密度の悪いデータではAOI C とAOI D に分かれて入ってしまっています。
サンプリングレートは、アイトラッカーが1秒間に取得するデータの数を指します。サンプリングレートが高くなるほど眼球の動いた経路を正確に算出する能力が上がりますが、膨大なデータの処理や、搭載するアイトラッキングカメラの性能などによってコンピュータにかかる負荷も増えます。サンプリングレートを決める前に自分の研究に必要なサンプリングレートを理解しましょう。
図4の動きを考えてみましょう。停留があり、サッカードが起きて次の停留へと移っています。青で囲まれた点のみのタイミングで視線を取得するか、その倍の垂直線すべてのタイミングで視線を取得するかで取得間隔が異なり、間隔が短いほうが実際の眼球の動きに近い視線を検出できる可能性が上がります。使用するアイトラッカーのサンプリングレートが60Hzの場合、サンプリングの間隔は16.67ms(ミリ秒)です。サンプリングレートを2倍の120Hzにするとサンプリング間隔は半分の8.33msになります。600Hzまたは1200Hzでサンプリングする場合、サンプリング間隔はそれぞれわずか1.67ms、0.83msです。
2つの異なるサンプリングレートで取得した視点から実際の波形(視線の移動経路)を再構築しようとした場合、全く同じ結果にはなりません。(図5および図6参照) 再構築された波形だけで判断すると、図5のタイミングで取得した場合サッカードが非常に直線的な印象を与えますが、2倍のサンプリングレートである図6では実際の動きに近くなっています。
図のサッカードはサンプリングレートが遅くても十分に検出可能な大きなサッカードでしたが、とても小さなサッカードは検出できない可能性があります。
マイクロサッカードやその他の「停留」に関する眼球運動、またはサッカード後の振動などの「眼球運動自体の特性」を研究( 例:Juhola, Jäntti, & Pyykkö, 1985)するのであれば、より高いサンプリングレート(且つノイズの少ない)のアイトラッカーが必要です。停留やサッカードの開始や終了のタイミングをより正確に計測できるので、停留時間やTime to First Fixation(対象エリアに停留が出来るまでにかかった時間)などのメトリクス解析においても高品質なデータによる解析が可能となります。
Andersson、Nyström、Holmqvist(2010)らの研究では、潜時と2つのサンプリング間の時間について区別されています。
潜時の計測は、例えば、ターゲットに対する最初の停留の時間であると言えます。これには始点と終点が必要です。始点は誤差による影響が少ないサンプリングレートを持つアイトラッカーが判定し、終点は停留フィルターの計算によって決定されます。実際の停留の開始タイミングはサンプリング間隔のどこかであり、サンプリングタイミングの直前の可能性も、直後の可能性もあります。直前であれば、すぐに検出できその誤差は0に近くなりますが、直後に起こっていた場合は、次のサンプリングタイミングまで待つ必要があり、その誤差はサンプリング間隔の時間に近くなります。60Hzのアイトラッカーでは最小誤差と最大誤差はそれぞれ0と16.67msとなりますが、平均するとサンプリング間隔の半分、8.33msとなります。したがって、被験者が同じタイミングでターゲットに反応していても、60Hzのアイトラッカーで計測した場合、潜時は最大で16.67msの変動幅を持ち、分析にはそのノイズが加わります。これは、潜時の測定値が実際よりわずかに長く評価されることを意味します。
見ている場所に応じて何かを呈示するといったゲイズコンティンジェンシーの研究では、サンプリングレートは速いに越したことはありません。
被験者が気づかないタイミングで画面上の情報を切り替えるためには、視線をハイスピードでサンプリングし、画面上の特定の領域を視線が横切った瞬間やターゲットに向かってサッカードが起こった瞬間を即座に検出する必要があります。それらをできるだけ早く検出することでサッカード中に画面上の情報を切り替える時間に余裕が生まれます。
このようにゲイズコンティンジェンシーでは画面上の視覚呈示などのタイミングや、アイトラッカーからの視線データの精度が重要になります。しかし、サンプリングが速ければ速いほどデータの処理にかかる時間や負荷などを考慮する必要があることは覚えておきましょう。
瞳孔径の反応は速くないのでサンプリングレートを高くする必要はありません。例えば、ヒップスと呼ばれるリズミカルな瞳孔の運動は1秒間に1~2回の頻度で起こるため、目を撮影するデバイスであれば検出可能です。また、メンタルワークロード(精神的な作業負荷)の変化によって引き起こされる瞳孔径の変化も数秒の遅れがあります。(Klingner,Kumar, Hanrahan, 2008)
瞳孔径の反応は速くないのでサンプリングレートを高くする必要はありません。例えば、ヒップスと呼ばれるリズミカルな瞳孔の運動は1秒間に1~2回の頻度で起こるため、目を撮影するデバイスであれば検出可能です。また、メンタルワークロード(精神的な作業負荷)の変化によって引き起こされる瞳孔径の変化も数秒の遅れがあります。(Klingner,Kumar, Hanrahan, 2008)
皮膚電位(EDA; ガルバニック皮膚反応 - GSR)、筋電(EMG)、心電(ECG)、呼吸などの他のセンサーと同期する場合、センサーごとにサンプリングレートが異なる場合があります。
データを共通のサンプリングレートに合わせることが目的の場合はサンプリングレート変換の標準的な手法もあります。(Wikipedia:サンプリング周波数変換を参照)
Tobii Proラボでは、Shimmer社の GSRのような他センサーを同一ソフト内に追加して記録することが可能です。様々なサンプリングレートを処理し、共通のタイムラインに調整します。
3回にわたり、アイトラッキングの基礎について紹介してきました。
アイトラッキングを使った研究、調査を始める際、どのアイトラッカーが適しているのか、実験計画などについて相談したい場合は、是非お気軽にお問い合わせください。
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