アイトラッカーの仕組み
本記事ではアイトラッキングの仕組みや、人間の視覚システムの仕組みなどを解説しています。
アイトラッキングを使った研究や調査を始めようとお考えの皆様はもちろん、既にアイトラッキングを使っていらっしゃる方にも知っていただきたいアイトラッキングの基礎についてご紹介します。3部構成となっておりますので、是非ご覧ください。
第一弾では、アイトラッカーの仕組みについて解説しています。
本記事では、
について紹介しています。
皆様のお役に立てると幸いです。
視覚システムの過程は、角膜、瞳孔、水晶体を通して入ってくる対象物や景色が反射した光から始まります。角膜と水晶体により網膜に光が集まります。水晶体には距離に応じて焦点を合わせるという働きもあります。瞳孔の開閉で光の量を調節がされ、網膜では光の波長(色)、コントラスト、輝度の違いが生物学的信号に変換され、視神経および神経回路を通って脳の視覚処理領域に伝達されます。
人間の両眼での視野は水平方向に約220°、垂直方向に135°と言われています。ただし鮮明に見えている部分は限定的です。網膜の光を感受する細胞のうち約94%が桿体細胞と呼ばれ、少ない光で働きますがぼやけた、色情報の少ない視覚情報として認識しています。より鮮明な視覚情報は残りの約6%である錐体細胞によって得られます。短(青)、中(緑)、長(赤) の波長から色の情報を得ますが、多くの光を必要とします。暗い場所で色が認識できなくなるのはこのためです。この鮮明な視覚情報を得る事のできる錐体細胞は、中心窩と呼ばれる部分に密集しています。
中心窩によって鮮明な視覚情報が得られる範囲はわずかに不規則な形をしていて、約1~2°です。残りの視野で得られた視覚情報はぼやけています。
人間の目から得られる視覚情報には制限があり、中心窩から離れた場所での視覚情報は不鮮明なのでいくつかの眼球運動でこれを補完しています。
停留(Fixation) は認知プロセスや認知状態を調べる上で一般的な眼球運動です。関心のある場所の情報を詳細に得るために対象を中心窩に捉え続ける眼球運動です。直接計測出来るものではなく、フィルターによって定義されたraw データの集まりとなります。注意、視認性、メンタルプロセス、理解を明らかにするために有用な情報です。例えば「対象に停留が出来るまでの時間」が長い場合、「対象が目立たない」、「対象が興味を惹かない」といった可能性、「対象上に出来る停留の平均時間」が長い場合は「対象を理解するまでに必要な時間」または「対象が魅力的である」といった可能性が示唆されます。興味、注意、認知プロセス、認知状態を研究するには、どのメトリクスを使うかが重要です。また、アイトラッキングだけではなく、瞳孔拡張や皮膚コンダクタンス(発汗) などの計測やインタビューを組み合わせることで説得力のある結論に導きます。
サッカード/ サッケード(Saccade)とは、関心のある場所から次の関心のある場所へ中心窩を急速に移動させる眼球運動です。人間の知覚はこの停留とサッカードを交互に繰り返すことで得られていますが、サッカード中の網膜情報の視覚情報は低品質なので視覚情報のほとんどが停留中に取得されています。
近くを見るときに両眼が内側に寄る動きを輻輳、遠くを見るときに両眼が外に開く動きを開散と呼ばれます。一般的にサッカードよりも遅い動きです。
自発的には起こせない眼球運動で、動いているものを目で追う際に発生します。殆どの場合速度は30°/ 秒未満です。( なかには100°/ 秒で追従できる人もいます)30°/ 秒以上の速度で動く対象を目で追うとき、追いつくためにサッカードが発生します。
頭の動きと反対方向に眼球が動く運動です。通常、眼球の速度は頭の速度に等しくなります。
Raw データをそれぞれの関連する眼球運動に分類することは、アイトラッキング調査の重要なプロセスです。Tobii のアイトラッキング分析ソフトウェアでは停留フィルタを使用して、眼球運動を分類します。
レコーディング中、アイトラッカーはサンプリングレート(Tobii Pro アイトラッカーの場合は60、120、300、1200Hz など)に従い、眼球運動データを収集します。データを視覚化し解釈するために、停留フィルタでは、これらのRaw データを、停留、サッカード などに分類します。
停留をメインに使用する研究では、データをフィルタリングすることで、処理対象となるデータ量が大幅に削減されますし、解釈が容易になり、研究課題に必要なデータの分析に専念することが出来ます。
停留フィルタの別の目的としては、有効と考えられるデータのみを抽出することです。眼球の位置データがない、またはシステムが片眼だけを記録し、それが左目か右目かを識別できず、最終的に視点を推定できない場合は、そのデータはフィルタによって破棄されます。
停留フィルタにはいくつかの考えがありますが、Tobii Pro ラボでは眼球の角速度を基にしています。(Tobii I-VTフィルタ)つまり、眼球の角速度は特定の閾値を下回る速度であれば同じ停留点となります。いずれのアルゴリズムも、背後にある基本的な考え方は、「被験者の眼球が比較的静止している場合を停留とする」ということになります。
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