ドライバーのためのデザイン設計

  • Tobii
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Driver using in-car console

自動車の安全性の歴史は、1958年のシートベルト、1966年のアンチロッキングブレーキ、1981年のエアバッグに代表されるように、画期的なデザインコンセプトに特徴があります。それ以降は、車体の外装の強化や、クラッシャブルゾーンの改善、さらに車の転倒防止などの微調整や改造が行われてきました。しかし、あらゆる運転状況において最も複雑な要素であるドライバー自身については、限定された理解で設計してきました。

アイトラッキングは、自動車の安全性に新たな革命をもたらそうとしているのです。

なぜ、ドライバーの運転行動の理解が重要なのか

自動車業界は、安全開発においてドライバーの運転行動を理解することを重要視しています。強い衝突や水没、高速時のハイドロプレーニング現象まで対応できるクルマができたことで、自然と「予防」が重視されるようになりました。ご存じの通り、交通事故の90%以上はドライバーのミスによるものです。ナビゲーションシステムやエンターテインメント、速度メーターなど搭載されたシステムが煩雑になるにつれて、さらに悪化の一途を辿っています。しかし、人間の自然な行動や注意と交わるようなクルマのインテリアを構築することにより、危険な状況下でもドライバーが反応しやすくなる可能性があるのです。安全性だけでなく、ユーザーエクスペリエンスを重視したデザインは、運転行動をより簡単に、より楽しくしてくれるに違いありません。

アイトラッキングの仕組み

人間中心設計の考え方は素晴らしいアイデアですが、現実の世界では実際どのように機能するのでしょうか。アイトラッキングソリューションを使えば、自動車メーカーは研究室という限定的な環境から飛び出して、実際の状況でコンセプトテストを実施することができます。

ウェアラブルアイトラッキングデバイスを使用することで、実車中あるいはシミュレーターを使った運転中に、ドライバーの視線パターンを測定することができます。いずれにせよ、道路利用者がデザインの特徴にどのように関わるかによって、これまで気づかなかった潜在的な注意力散漫や障害、危険性が示されます。また、アイトラッキングデータを分析することで、携帯電話の接続やナビへの住所入力など、ありふれた操作をスムーズに行い、他のことに気を取られず、運転に集中するためのデザイン開発にも役立ちます。

阻害しないインターフェイスのデザイン

スペインの自動車メーカーであるSEAT社は、インフォテインメントシステムがドライバーの認知や注意力に与える影響を分析するため、独自のアイトラッキング調査を実施しました。SEAT社の優先事項は、他の自動車設計者と同様、安全性です。インフォテインメントシステムは、現代の車にとって事実上不可欠なものですが、機能が多く、ドライバーの視線をより長い時間、道路から遠ざける可能性があります。参加者には、シミュレーター環境にてTobii Pro グラス 3を使用し、温度やバッテリー残量などの重要な情報がどこにあるかを直感的に予想し、実証してもらいました。これらの情報を多くの人が自然に探せるよう、画面を再設計し直すことで、画面の閲覧時間の短縮ができ、安全性を向上させる可能性があります。また、インフォテインメント機能をより身近なものにすることで、運転中の楽しみを増やすことができます。

自動車デザインにおけるアイトラッキングの応用

SSEAT社の研究は、インフォテインメントシステムの再設計の手法という以上に、運転中の注意力散漫の要因を理解するためのアイトラッキングの可能性を示しています。アイトラッキングの研究手法が進歩すれば、単にデザインを最適化するためにアイトラッキングを使用するだけでなく、新しい機能、機器、その他あらゆるものを導入する際の標準的な手法として、アイトラッキングが利用されるようになります。車内の各アイテムがどの程度の注意力散漫を引き起こしているかを正確に把握することは、ドライバーにとって快適でスムーズな体験につながります。

We will inevitably reach a point in the future when auto companies trust eye tracking to help them design every aspect of their models with enjoyment, comfort, and safety at the forefront. 
KAZUMA SAKAMOTO, Account Manager Automotive and Machinery AT Tobii technology

その通りです。実際、一部のデザイナーはすでにその道を進んでいます。Fang Youらと同済大学が主導した研究では、運転中の被験者が実世界の状況で車線変更する際の視線データを分析しました。研究者たちは、「道路に注意が向いていない時間と後方の道路状況の認識」を理解することで、将来的なHUDベースの車線変更時において、理想的な警告表示のデザイン設計に役立てたいと考えました。研究結果は、ディスプレイと警告表示の配置を最適化し、注意散漫を最小限に抑え、実際に安全性を向上させる安全システムを実現することができました。

より広い意味で、多くのデザインコンセプトは、近年自動車メーカーにより調査された「DWA(Driving Without Awareness/無意識下での運転)」という心理現象にまつわるアイデアから発展しています。DWAは、意思決定を意識せずに運転することを指し、ある出来事を振り返る際に記憶がないことを特徴とします。DWAの調査をする際、アンケートでは当然ながらその効果に限界があります。そこで、自動車業界のUX研究者は、DWAが状況や外的要因によってどのように引き起こされるかをより深く理解するために、アイトラッキングを利用しました。その結果、DWAは中程度のリスクであると考えられ、高速走行や過酷な状況など他の要因と組み合わさることで、事故を助長することがあることも分かりました。このことを理解することで、設計者は安全機能を最適化し、必要に応じてより効率的にドライバーの注意を引くことができるようになると同時に、運転行動から注意を奪う可能性のある注意散漫な行為を制限することができます。

つまり、安全性から楽しさまで、アイトラッキングの研究は、自動車メーカーが競合他社より優位に立つために自社のクルマのモデルをマイナーチェンジするのに役立っているのです。この新しいデータは、設計者にこれまで知られていなかったインサイトを与え、常識を覆すクルマへの道を切り開きます。

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