視線の可視化・数値化で 分かるバイオリン初心者の改善点

  • 永松 春乃
  • 8 分

Man playing violin.

先生と生徒の視線を可視化する

本記事は、アイトラッカーで計測した視線がどのように可視化できるのかを知りたい人や、視線を数値化することでどんなことが分かるのかを知りたい人に向けた記事です。
前回に引き続き、バイオリンの練習を題材にしたので、楽器の演奏に関心がある人にも読んで頂けたら嬉しいです。

今回も、ドヴォルザーク作曲『ユーモレスク』の演奏を、先生(歴20年以上)と生徒(歴5年。執筆者本人)で比較しました。分析対象は1小節目から16小節目です。

まず、ヒートマップを見てみます。ヒートマップは、長く見たところが赤色になり、見た時間が短くなるにつれ、黄色から緑色へ変化します。視線動画からも大まかな傾向を掴めますが、画像に落とし込むことで、違いがより分かり易くなります。ヒートマップの定義について、Heat maps in Tobii Pro Labに記載されていますのでぜひご覧下さい。

A heat map visualizes where the violin teacher was looking during the performance.
図1 先生のヒートマップ
A heatmap visualizes where the violin beginner was looking during the performance.
図2 生徒のヒートマップ

先生は楽譜を見て、生徒は楽器を見ていた

図1と図2を比べてみると、先生は楽譜だけを見ていた一方、生徒は楽器を長く見ていたことが分かります。前回の記事で述べたとおり、熟練者と比べて非熟練者が余計に見ていたものは非熟練者の改善点と考えられるため、このヒートマップからも、生徒は曲の進行に集中出来るよう、楽器の扱いに習熟していくべきだと言えそうです。

先生と生徒の視線を数値化する

演奏全体の見たものの違いが分かったので、次に、演奏を小節ごとに区切って、見たものの違いを見てみます。図3で、楽譜を読む方向を縦軸、演奏の進行を横軸に取り、見た時間を数値化したものです。オレンジ色は先生、黄緑色は生徒の見た時間です。

Where they saw it at the time for each measure they are playing.
図3 演奏している小節ごとに見た場所

先生は楽譜の先読みをして、生徒は弓や指のポジションを見ていた

図3上で、オレンジ色で囲った箇所は、先生がまさに演奏している小節を見ていたことを示します。また、黄色で囲った箇所は、先生が演奏している小節よりも先の小節を見ていたことを示します。この2つから、先生は演奏の進行に合った小節を順番に見ながら、先読み(アイハンドスパン)も行っていたことが分かります。

一方、生徒のグラフは先生のグラフと全く異なっており、見方が違ったことが改めて分かります。演奏の進行に合った小節を見ていないので、半端な暗譜で弾き始め、音が分からなくなった時に突発的に楽譜を見ていたことが推察されます。また、終始楽器を見ているなかでも、黄緑色で囲った箇所が示す通り、前半は指板や弓を見て、後半はネックを見ていたことが分かります。前半は良い音が出せるように弓の動かし方に気を配っていたが、後半にポジション移動が発生してそちらに気を取られたため、このような見方になったと考えられます。まずは後半も安定して弓の動かし方に気を配り続けられるよう、ポジション移動の習熟が必要なようです。

フレーズを意識して楽譜を見る

先生のヒートマップをよく見ると、楽譜のなかでも1番高い音(オレンジの矢印)と1番低い音(青の矢印)を見ていたことが分かります。楽器を見ずに自信をもって弾けるようになった後は、このようにフレーズの山を意識すると、より良い演奏が出来るようになると考えられます。

Score with heatmap visualizing what the teacher saw
図4 先生のヒートマップの拡大

おわりに

本記事により、視線データの可視化と数値化が新たな発見に繋がることがあることをお伝え出来ていれば幸いです。

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