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ビデオゲーム分野における生体信号とその活用について

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ビデオゲーム分野における生体信号について

ヒトは身体活動に伴って皮膚、脳、心臓、筋肉など様々な部位から生体信号を発している。ビデオゲーム(以降、本文内ではゲームと表記する)分野は生体信号の活用が期待されている分野のひとつである。開発段階のゲームに対して、プレイ中の気分の高揚やストレスを計測して改善に活かすことで、より良いゲームソフトの開発に役立てられる。また、プレイ中の信号入力としても生体信号の活用が期待されている。

本記事では、ゲーム分野における生体信号の活用をレビューしたHughes & Jorda (2021)を参考に各種生体信号の基礎とゲーム分野での活用事例を紹介する。本記事において、生体信号とは、筋電図、脳波、心電図、皮膚電気活動や視線など、計測機器を用いてヒトから取得できるデータのこととする。

筋電図

筋電図は筋肉から発生する電気活動を測定・記録するために用いられる技術である(Athavale and Krishnan, 2017)。筋肉は収縮する際に微弱な電気信号を発するため、その電気信号を測定することで筋肉の活動や神経活動を評価することができる。

筋電図はゲームの入力制御や感情の評価などのために、主に開発者や研究者によって広く利用されている。例えば、筋電図を入力信号としたゲームを制御する研究(Armiger & Vogelstein, 2008)が存在する。この研究では、ゲームへ接続した筋電センサから取得した筋肉の電気信号を処理し、その結果を用いてゲームを制御することで、意図した動きを実現している。この方法が発展すれば、筋肉に関わる疾患を持つ人が四肢を動かさずにゲームをプレイしたり、筋肉の使い方を学ぶことに活用できる可能性がある。また、顔の筋肉の活動を測定する表情筋電図などを用いて、プレイヤーがゲームに対してどのように反応するかを調査した研究(Nacke & Lindley, 2008)も存在し、プレイ中の快や不快といった感情の評価にも活用されている。

脳波

脳波は脳内の電気信号を測定・記録するために用いられる技術である。この電気信号を測定し、脳の領域や波形パターンから睡眠や覚醒などの状態を評価することができる。

脳波は、幅広く活用されている。例えば、脳活動から人間の意思を推定して稼働するプログラムであるブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)などがあり、多くの研究者がBCIのゲームへの応用を試みている。実際に、脳波を入力とし操作に反映する実験もされており(Ahn et al., 2014)、いくつかのアプリケーションやゲームがリリースされている。また、ゲームプレイ中の脳波信号をモニタリングすることで、プレイヤーの感情的な思考を分析することができる。それによって、ゲームの難易度が適切であるかどうか、どの場面で面白いと感じているかなどゲーム開発を手助けする指標として活用できることも利点の1つである(Carofiglio et al., 2019)。

心電図

心電図は心臓から発生する電気的活動を測定・記録するために用いられる技術である。

心電図は3つの電極を心臓周囲の皮膚に貼り付けて測定する。そして、取得された活動電位から、心拍数などの値を算出して分析に活用する。心拍数は、運動時などの身体活動時、精神的緊張時、身体疲労時などによって変化する(Che et al., 2015)ため、あらゆる場面で生体信号として活用されている。

心電図はゲーム中の感情の状態を測定するために使われている。例えば、ホラーゲームをプレイ中の感情状態をモニタリングした研究(Vachiratamporn et al., 2015)がある。この研究では、恐怖刺激の前後の心電図を計測することは、プレイヤーの感情を予測する効果的な手段であることを示唆している。また、脳波同様、ゲームプレイ中の心電図をモニタリングすることで集中度や覚醒度などの変化を分析することができる(Giakoumis et al., 2011)。ゲームの開発者はこれらの分析指標をゲームの難易度設定やプレイヤーの興味・集中を持続させるためのストーリー設計に活かすことができる。

皮膚電気活動

皮膚電気活動は皮膚に電極を貼付して電気抵抗や電気伝導度を測定する技術であり、その電気抵抗や電気伝導度によって自律神経系の反応を評価する。皮膚の電気抵抗や電気伝導度は運動や緊張、恐怖などの覚醒時や身体活動時に、交感神経系の活性化による発汗などの生理的反応によって変化する。そのため、皮膚電気活動の変化から自律神経系の反応を評価することができる。

皮膚電気活動はプレイヤーのストレスや覚醒度の指標となるため、バイオフィードバックとしてのゲームへの入力や、ゲーム開発時の評価指標として用いられる。いくつかの研究ではゲームの難度やスピードが上がると、皮膚電気活動も上昇することを示している(Parsons and Reinebold, 2012)。そのため、皮膚電気活動を指標として、プレイヤーの集中度などを把握することで、プレイヤーの集中度合いに応じて難易度を調節したり、ゲームへの入力として活用できる。また、ゲームプレイ中の皮膚電気活動を測定することで、ゲームストーリーのどの場面で集中が途切れてしまっているのか、どの場面で集中できているのかといった評価が可能となり、ゲーム開発者はより効果的な改善をすることができる。

視線

視線はアイトラッキングにより計測される。アイトラッキングには赤外線センサやカメラなどから成るアイトラッカーが用いられ、被計測者がどこを注視したか、視線がどのように動いたかという情報が取得される。このような視線情報から、画面のどこが注目されやすいのか、上級者は何を見て行動しているのかといった様々な分析をすることができる。

視線はゲームへの入力やゲーム画面のデザイン・インターフェースなどのユーザビリティテスト、e-sportsにおける上級者の視線の分析などに活用されている。例えば、視線を入力として扱う技術にdwell-time-based selection(Isokoski et al., 2009)というものがある。この技術では、注視した場所や注視時間を利用してPCのマウスのように機能させ、視線での選択操作が可能となる。そのため、この技術はVR空間内での入力や、障害を持つ人でも操作できるインタラクションとして活用されている。他にも視線によってキャラクターの方向を制御し、障害物を回避するゲーム(Kumar and Sharma, 2016)や視線の動きで音楽を演奏するアプリケーションなども存在している。また、視線の移動量が多すぎていないかなどといった視線情報からUI/UXの評価に、キャラクターが何秒見られているかなどといった視線情報からデザインの評価にも活用されている。

まとめ

本記事ではゲーム分野において用いられる生体信号の基礎と活用例について述べた。これらの生体信号を計測することで、プレイヤーの感情や集中度などの状態を評価し、ゲームの改善や入力信号として活用することができる。しかし、これらの生体信号はそれぞれ単体で完全な感情や心理状態を読み取ることは難しいため、他の生体信号と組み合わせることでより有用な情報とする必要がある。ただし、ひとつの調査内で扱う生体信号が増えるほど解釈も複雑になるため、正しい情報や根拠をもって適切に調査設計を行う必要があることに注意しなければならない。適切な設計に沿って、これらの生体信号を活用した分析をすることで、より魅力的なゲームの効果的な開発やプレイ体験の向上が期待される。

参考文献

Ahn, M., Lee, M., Choi, J., & Jun, S. C. (2014). A review of brain-computer interface games and an opinion survey from researchers, developers and users. Sensors, 14(8), 14601-14633.

Armiger, R. S., & Vogelstein, R. J. (2008, November). Air-Guitar Hero: A real-time video game interface for training and evaluation of dexterous upper-extremity neuroprosthetic control algorithms. In 2008 IEEE Biomedical Circuits and Systems Conference (pp. 121-124). IEEE.

Athavale, Y., & Krishnan, S. (2017). Biosignal monitoring using wearables: Observations and opportunities. Biomedical Signal Processing and Control, 38, 22-33.

Carofiglio, V., De Carolis, B. N., & D'Errico, F. (2019, September). A BCI-based Assessment of a Player's State of Mind for Game Adaptation. In GHITALY@ CHItaly.

Giakoumis, D., Tzovaras, D., Moustakas, K., and Hassapis, G. (2011). Automatic Recognition of Boredom in Video Games Using Novel Biosignal Moment-Based Features. IEEE Trans. Affective Comput. 2 (3), 119–133. doi:10.1109/t-affc.2011.4

Hughes, A., & Jorda, S. (2021). Applications of biological and physiological signals in commercial video gaming and game research: a review. Frontiers in Computer Science, 3, 557608.

Isokoski, P., Joos, M., Spakov, O., & Martin, B. (2009). Gaze controlled games. Universal Access in the Information Society, 8, 323-337.

Kumar, D., & Sharma, A. (2016, September). Electrooculogram-based virtual reality game control using blink detection and gaze calibration. In 2016 International Conference on Advances in Computing, Communications and Informatics (ICACCI) (pp. 2358-2362). IEEE.

Nacke, L., & Lindley, C. A. (2008, November). Flow and immersion in first-person shooters: measuring the player's gameplay experience. In Proceedings of the 2008 conference on future play: Research, play, share (pp. 81-88).

Parsons, T. D., & Reinebold, J. L. (2012). Adaptive virtual environments for neuropsychological assessment in serious games. IEEE Transactions on Consumer Electronics, 58(2), 197-204.

Russoniello, C. V., O’Brien, K., & Parks, J. M. (2009). The effectiveness of casual video games in improving mood and decreasing stress. Journal of CyberTherapy & Rehabilitation, 2(1), 53-66.

Vachiratamporn, V., Legaspi, R., Moriyama, K., Fukui, K-I., and Numao, M. (2015). An Analysis of Player Affect Transitions in Survival Horror Games.J. Multimodal User Inter. 9, 43–54. doi:10.1007/s12193-014-0153-4

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